昨年の流行語大賞にもノミネートされた「推し活」。リアルのアイドルからアニメのキャラ、YouTuberなどその対象は様々だが、このところ若者の間で増えているのがバーチャルYouTuber「VTuber」の推しだ。
アバターを着たVTuberなる幻想に課金しまくっている人も少なくないという、にわかには信じがたい話も。ではVTuberファンたちは、実際にどのような推し活の日々を送っているのだろうか。
「推し活の基本はやっぱり配信を見ること。基本的に告知や配信はTwitterとかの媒体で発表されるものをチェックして、配信は全部見ます。その中でコメントをして、機会があればスーパーチャットをする。イベントがあればその都度できる限り参加して、あとは物販もありますね。僕が推しているにじさんじの場合はネット上で記念グッズが販売されることがあるので、機会があれば買っています」
こう話すのは「にじさんじ」というVTuberグループに所属する「月ノ美兎」推しの高山健人さん(仮名)。25歳で普段はIT系企業に勤めている。
「他の人の配信もたまに見たりしますが、基本的には月ノさんの単推しです。推し活を始めたのは2018年初め頃。ちょうどVTuberの黎明期で、活動の一部をクリップしたMAD動画というものがニコニコ動画にアップされていて、それが信じられないくらい面白かったので追い始めたという感じです」(高山さん)
配信者へお金を送る「スーパーチャット」ネット系の推し活で特徴的なのが、生配信中に視聴者から配信者へお金を送るスーパーチャット(投げ銭)。
「僕の場合、投げ銭は一番投げていた時期で月に1万円くらいかな。物販については、自分が欲しいと思ったものを買っていたし、イベントも、月ノさんが出るものは大体応募しています。人気が高いので受かったり落ちたりですが」(高山さん)
スーパーチャットに1万円は、その界隈ではそう多いわけではないが、この世界を知らない人には、何のためにお金を払うのかと無駄に思えるかもしれない。しかし、ファンにとってはそうではない。
「1万円あればおいしいご飯を食べたり新しい服を買えるのに、とは思いませんね。もともとそこまでお金を使う方ではないし、生活が苦しくなるということもなかったし。アーカイブとか配信を見ている時間って自分の可処分時間の中ではけっこう大きな割合を占めていたので、趣味として考えるのであれば月に1万円くらいは妥当なんじゃないかなと思います。
ただ、時間はそれなりに使いますね。一番追いかけていた時期は、だいたい週に2時間くらいの配信が3~5回あって、全部見ていました。今は切り抜きが中心で、たまに気になる配信があれば見に行くという感じで、動画を見るのは週に1時間くらいとだいぶ短くなりました」(高山さん)
高山さんの推し活はその界隈で一般的だというが、他にもアニメなどで浸透した「聖地巡礼」を実行するファンもいる。
「配信の企画で出てきた場所に行ったりする、いわゆる聖地巡礼とかもありますよ。月ノ美兎さんだと、『工事費に一億円かかったトイレでカレーを食べる』っていうよく分からない一人便所メシ企画をやったことがあって、ファンの間では、そこのトイレが聖地ポイントになってました」(高山さん)
ファンがせっせと作る「切り抜き」また、ファンアートを描いてネットに投稿したり、切り抜き動画を作ってアップする推し活をするファンも少なくない。
「僕はやっていませんが、そういった形で推し活をしている方は結構います。何事もそうかもしれませんが、ネット上で活動する人は、まずは知ってもらわないと始まらない。だから自分の推しをたくさんの人に知ってもらうためファンアートを描いて投稿したり、切り抜き動画を作ったりするんです。
VTuberの配信はたいていアーカイブになっていますけど、1回の配信が1~3時間とか普通にありますから、それを最初から見るというのはものすごく敷居が高いんです。だからファンアートや5~10分くらいの切り抜き動画で入り口を作ってあげるというのはすごく重要だと思ってます。
切り抜き動画は配信者の動画から視聴者を奪っているという見方もあるかもしれませんが、現実には切り抜き動画からの流入が結構あるというのは配信者側も分かっているし、たいていは切り抜きについてのガイドラインが、しっかり定められていますからね」(高山さん)
ここまでの熱量で何かに夢中になったのは、「学生時代の部活動以来かもしれません」という高山さん。現在のVTuber界隈が盛り上がっている状況をこう解説してくれた。
「あくまで私の認識ですが、VTuberが出てきた最初の頃は、有名なキズナアイさんなどをはじめとして、動画による活動に主軸を置いている配信者が多かったです。それが月ノ美兎さんが出てきた辺りから、配信が活動の中心になってきました。
現在はホロライブというグループとにじさんじというグループの2つが中心になって盛り上がっている印象です。このふたつは『企業系』と言われていて、それとは別に組織には属さずに活動をしている『個人勢』も多いですよ」(高山さん)
大々的に活動する「企業勢」、個性の強い「個人勢」ホロライブは「カバー株式会社」、「にじさんじ」は「ANYCOLOR株式会社」という企業が運営している。このように大手の企業のバックアップを受けて大々的に活動するVTuberが増えている一方で、個人勢も根強い人気だ。
「個人勢については、結構昔からやっている人も多いです。一時期は1万人以上のVTuberが活動していましたから、比率で言えば個人勢の割合はけっこう高い。有名なところだと名取さなさんとか天開司さんとかですね。
もともと最初の頃のVTuberはほとんどが個人勢だったし、企業勢はコンプライアンス的な制約が結構あったりしますが、個人勢は基本的にそれがないので、より自由な配信をされている方が多いという印象です。たとえば日雇礼子さんという個人勢のVTuberがいるんですけど、この人は西成のあいりん地区で日雇い労働者をやっていた経験があって、ドヤ街の映像を出しながら自分の経験を絡めた話をしたりする。
ハードな話だけじゃなく西成の安くておいしいお好み焼き屋さんの話があったりと興味深い。映像もちゃんと自分で撮ったものを自分で編集してモザイクをかけたりしたものを使っています。やっぱり知らない世界の話は聞いていて面白いです」(高山さん)
高山さんが推すVTuberグループ「にじさんじプロジェクト」には約150名のVTuberが所属しているのだが、その中で「月ノ美兎」を推すようになった魅力は何だったのか。
「一番強いのは雑談です。月ノさんは過去に色々な経験をしていて、例えばその辺の路上で自分の描いた絵を1億円で売ったりとか、よく分からない活動をたくさんしているんです。もともと芸術系出身だそうですが、そういう変わった人生経験の話がたくさん出てくるところが人間性も含めて面白い。
自分から面白いことを色々探しに行く企画もあって、最近だと『大喜利セミナー』なるイベントに参加して、その様子を、自作の紙芝居を使ってレポートしたり。3DCGのVTuberが2Dの紙芝居を使うのも面白かった」(高山さん)
VTuberの提供するコンテンツはリアルの配信者らと大きな違いはない。生放送を中心とした雑談やゲーム実況、楽曲やイラストの公開やカラオケ配信と他グループとのコラボも活発だ。では、VTuber独自の魅力はどこにあるのか。
「アイドルやYouTuberは良くも悪くもルックスのバイアスがかかりますよね。それに比べてVTuberは外見にアバターを使っているわけで、その意味でスタートラインはほとんど一緒というか変わらない。
じゃあ何が重要になってくるかというと、やっぱりその中身がどれだけ面白いか。私はアバターの絵や動きというより、中身だけで勝負する土俵に立っているというところに魅力を感じますね」(高山さん)
外見を含めて世界観を自由に作れるVTuberだからこそ、よりキャラクターが持つ内面やコンテンツの面白さが際立つということのようだ。
コミケでも「VTuber」部門が「VTuberの場合、外見によってフィルターやバイアスがかからないのが魅力というのも分かります。ただ、私は絵を描く友人とかもいるのでルックスも気になりますね。アバターを有名なイラストレーターさんとかが描いている場合、そのイラストレーターはVTuberの体を生み出すという意味で通称『ママ』と呼ばれることが多いんですが、そのママが好きで、『あのVの子を生み出したから見てみようかな』という経緯でハマっていく人もいますしね」
こう話すのは、実際にファンアートを描くなどの推し活をする田沢裕太さん(仮名)。VTuberにハマってからまだ日は浅いというが、自分なりの楽しみ方を見つけている。
「以前、某VTuberに少しハマっていたんですが、今はにじさんじさんも含めて幅広く楽しんでいます。もちろん配信も見ますが、私の場合は自分でイラストを描いたりするので、ファンアートを描くことが中心です。基本的にTwitterに投稿していて、しばらくしたらpixivにまとめて投稿するというスタイルです」(田沢さん)
ファンアートとは、漫画やアニメ界隈でも、推し活の王道の一つ。ファンアートを描く有志が集まって即売会を開いたり、コミックマーケットに参加するケースもある。コミックマーケットでは漫画やアニメと同じようにVTuber部門というジャンルがあって、年々規模も拡大しているという。
「例えばpixivであげたファンアートを冊子にして販売することもありますよ。私もにじさんじのVTuberで好きな人がいるんですけど、同人誌とかファンアートとかを即売会という形で頒布する機会は定期的に行われています。
今年の5月にもちょっと参加したんですが、人出はすごく多かった。即完売みたいなのも全然あったので、ファンアートやグッズなどを買いたいという層もいっぱいいるんだというのを体感しました。
こうした即売会は基本的に企業が開催するものと、有志が開催するものがあるんですが、オフィシャルなものより有志が集まって開いているものが多い」(田沢さん)
こうしたファン同士の交流も推し活の楽しさのひとつ。VTuber本人や運営がかかわらない形での推し活には、著作権などセンシティブな問題も付きまとうが、今のところファン間の良識もあって大きな問題にはなっていないようだ。
「もちろん版権元からガイドラインが示されていれば、それがその作品の二次創作のルールになりますし、そもそもファン間の即売会の中で利益を得てはいけないという大前提が暗黙の決まりとしてあります。
即売会の界隈は、そのサークルが何か制作活動をした際に、買う側は頑張った労力と印刷代や制作費用をサークルに対して還元するというスタンスで成り立っているので、基本的に利益はあまり考えてないんです」(田沢さん)
スパチャのコメントは、「読む」派と「読まない」派がVTuberは現実世界のアイドルと違って握手会のような肉体的な接触はないので、ネット生配信でのコメントやスーパーチャットを介したコミュニケーションがメインとなっている。では、ファンはスーパーチャットでお金を払うことに関してどう考えているのか。
「スーパーチャットを投げる目的として、配信者にコメントを読んでもらえるというのがあります。ただ、これは配信者によりけりで、スーパーチャットを読む配信者と読まない配信者がいるんですね。
これは一概にどちらがいいというものではなくて、読む人は投げてもらって嬉しいし何かしらお返しをしたいという気持ちだろうし、読まない人は、それによって配信の流れが中断されてしまうのが嫌だったり、お金を投げない他のリスナーと区別をしたくないという気持ちなんだと思います」(高山さん)
VTuberのスパチャに対する対応は、配信中にコメントを読むタイプ、読まないタイプ、配信の最後に読む時間を作るタイプ、別にスーパーチャットのお礼枠というのを取るタイプと、大きく4つほどに分けられるという。
「結局、投げる側が何によって満たされると感じるかですよね。推しにコメントを読まれることで満たされる人もいれば、チャットで時間を取られるより、推し自身の空間を楽しみたい配信重視の人もいる。その辺りは個人によるんじゃないかと思います。
私の推してる月ノさんは、スーパーチャットを読まないタイプなので、スーパーチャットを送る時には、これによって推しの生活が楽になるんだろうという気持ちで投げています。物販などでグッズを買うことで間接的に支援しようという考え方に近いかもしれない。実際、月ノさんの配信だと、配信が終わって『さようなら』と言ってから毎回3万円くらい投げている人もいますからね」(高山さん)
1年間で約1億6000万円の投げ銭を集めたVTuberも物販が充実している企業勢と違い、小規模な個人勢を推す場合は、どうすれば推しを効果的に支援できるのかまで考えるのだという。
「個人勢を支援するときには、YouTubeであればスーパーチャット、noteとか他の媒体で活動している場合は投げ銭で支援したりもします。あとは、ユーザーが同人誌やグッズなどを販売するブースを作製できるBOOTHというサービスがあって、物販は出さないにしても、例えばイラストとかを販売している場合も結構ある。『BOOTHがやっぱり還元率が一番高いからそこに投げよう』とか、そういう風に考える人もいます。
BOOTHは販売価格に加えて『これはお気持ちです』という形で金額を上積みすることもできるので、こちらでグッズやボイスを購入する人もいますね」(田沢さん)
スーパーチャットは人気者になると1回の配信でかなりの額になる。昨年引退した人気VTuberの桐生ココが2020年の1年間で約1億6000万円の投げ銭(スーパーチャット)を集めたことも話題になった。
「ただ、そういう金額の大きさばかりが話題になってしまうと、世間に誤解されたままVTuberのイメージが広まってしまう危険性があるので、そこは心配です。それに、この前上場したANYCOLORの資料によると、会社全体の収入としてスーパーチャットより物販の方が比率が高いというデータがあるので、最近はそっち寄りにシフトしてきてるのかなという風にも感じています」(高山さん)
ファン同士の仲はいいけれど、リテラシーが気になる人も推し活の活動は多岐にわたるが、ファン同士のトラブルや、布教活動などで周囲に迷惑をかけたり、SNS投稿などでトラブルになることはないのだろうか。
「同じ箱推しなので、基本的にファンの仲はいいです。ただ、他のVTuberのファン間でトラブルがあったのは見ましたね。といってもイベントに送るフラワースタンドを有志でお金を出し合って作った際、宛名の書き方がどうなんだって話でモメていた程度ですが」(高山さん)
「以前推していたグループの界隈でいざこざがありました。簡単に言えばガイドラインに即してない投稿とか、絵だったらちょっとトレースしているなどリテラシーが気になる人が多くて、別のファンから注意されたりしてたんです。
にじさんじとかホロライブにハマる人は、もともとニコニコやYouTubeを見ていたりして比較的ネットリテラシーが高い人が多い印象ですが、そのグループの場合、主婦層など、あまりネットを見てこなかったファンが多かったからかもしれません」(田沢さん)
いずれにしても、この先VTuber界隈がますます盛り上がるのは間違いないところ。理解できないとか言っていないで、一度くらいは触れてみるのもよいのでは?
(清談社)
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(出典 news.nicovideo.jp)
「投げ銭をムダとは思わない」「アイドルやYouTuberとは違って…」VTuberオタクに聞いた、VTuberにハマる“意外な理由” - 文春オンライン 「投げ銭をムダとは思わない」「アイドルやYouTuberとは違って…」VTuberオタクに聞いた、VTuberにハマる“意外な理由” 文春オンライン (出典:文春オンライン) |
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